恋愛境界線
今はちょうどお昼時で、店内は満席状態。周囲はザワついているのに、不思議とその喧噪は耳に入ってこない。
私たち二人だけが切り離されている様な、そんな静けさの中で支倉さんの声だけが耳に響く。
どんな些細な一言であっても重みを伴って、まるで鉛の様に私の心の底へと沈んで行く。
「今更だけど、あの時に素直に受け取っていたら……って、思う時があるの」
「……どうして、受け取らなかったんですか?」
「若宮くんに仕事のことを、遠回しに無理しなくて良い、頑張らなくて良いって、そう言われた気がしたから、かな」
「えっ?」
「若宮くんがそういうつもりで言ったんじゃないって、今なら判るけど……でもあの時は、そんな風にしか思えなかった」
「そんな風にしかって、頑張らなくて良いって、ことですか……?」
「そう。大事にされてるって言えば聞こえは良いけど、あのタイミングで切り出されて、マイナス思考から抜け出せなかった私には、一方的に守られるのは、なんだか対等じゃなくなったみたいに思えて受け取れなかった」
どうしてこんな時に、こんなタイミングで言うんだろうって、指輪を見ても嬉しさはなく、悲しさしか湧かなかった。
支倉さんじゃなくて、私なら……。
そんな風に言われれば、私ならばきっと、相手のその言葉に甘えてしまうだろう、と思った。
だけど、あの時の支倉さんはそうじゃなくて、きっと無理をしてでも一緒に頑張りたかったんだ。