恋愛境界線
「そうですね。ただ……ちょっと気になったので」
「……気になったって、何が?」
「以前、若宮課長は言ってたじゃないですか」
『一時、女性と付き合ってしまったこともあるけれど、それは気の迷いだったと思っている』
「あれって、支倉さんのことですよね?なのに、また一緒に食事をしてるなんて」
どんな会話をするのか普通は気になるもんじゃないですか、といかにも一般論的な言い回しをすることで私的な感情は匂わせず、あくまでただの好奇心を装う。
「君だって緒方君と食事くらい、普通にするだろう?」
「そりゃあ、渚は友達ですから」
それと同じだと言われたって到底同じには思えない。私にしてみれば、それは全然違う。
何だか、しんとしてしまった空気がやけに重くて、だけど今日は無理に明るく振る舞うことも出来ない。
「──課長、ちょっとだけで良いので、お酒付き合ってくれませんか?」