恋愛境界線
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今日の仕事も終え、さっさと帰ろうと会社の受付前を通り過ぎたところでスマホが震えた。


歩きながら通話ボタンをスライドさせると、不機嫌でも陽気でもない、淡々とした渚の声が伝わってきた。


『遥、今夜暇だよな?メシ付き合って』


「突然どうしたの?しかも、暇だって決めつけるのは失礼だと思うけど?」


わざと大袈裟に不満を言えば、『何だ、普通に元気じゃん』と、意味不明の発言。


『ま、いーや。とにかくメシ食いに行くから、ちょっとその辺で待ってて』


渚は相変わらずの強引さで、唐突に通話を終わらせた。


あの言い方だと渚もまだ会社に残っているのだろうけれど、どこからか私のことでも見えているのだろうか?


そう思って、つい辺りをきょろきょろと見渡してしまう。


けれど、どこからか私を見ていたわけではなかったらしく、それから8分後に『今、駐車場なんだけど、お前どこ?』と、渚は偉そうに再び電話を掛けてきたのだった。



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