恋愛境界線
都心部にある会社の多くがそうである様に、我が社でもマイカー通勤は禁止されている。
だけど、常務の息子で、社長の右腕とまで呼ばれている渚は、他の役員同様に対象から除かれ、車で通勤をしている。
普段は便利なその車も、あらかじめお酒を飲むと知っていれば無用の存在となってしまう。
今日はお酒を飲みたいと言った私に、渚は車を駐車場に停めたまま一緒に電車で移動することになった。
「で、今日は突然どうしたの?何かあったの?」
「別に。ただ、純のヤツが、遥が元気ないみたいだって言ってたから」
「わざわざ心配してくれたの?渚、やっさしー」
茶化す様にわしゃわしゃと渚の頭を撫でてあげようとしたら、ちょうど電車が地下鉄のホームへと入って来た。
「つーか、大体何で、同じ会社に勤めてる俺よりも、純の方が遥の様子に詳しいんだよ?おかしいだろ」
誰に対する文句なのか判らない不満を洩らしながら、渚が真っ先に電車へ乗り込む。
「それはだって、純ちゃんとは毎日の様に電話で喋ってるからねぇ」
「はぁ?俺には電話を掛けてくるどころか、こっちからの電話にすらロクに出ないくせして」