恋愛境界線

それにしても、さっきから途切れることなくやって来るお客さんといい、金曜の夜なだけあって店内は絶えず賑わっている。


周囲の音に掻き消されない様にと、喋る声のボリュームも自然と普段より心なしか大きくなってしまう。


そのせいで余計に喉が渇くのか、さっきからお酒が進んでしょうがない。


あるいは、こんな風に憂いのない気持ちで過ごす時間が、久しぶりだからかもしれないけど。


今さっき私たちの横を通り過ぎて行った店員さんが、すぐ側まで戻って来たのを確認し、手が空いたタイミングで声を掛けた。


「すみませーん、こっちに――」


生一つ、と続けようとしたら、店員さんの肩越しに支倉さんと若宮課長の姿を見つけた。


入店したばかりの二人は、入口付近で店員さんに「只今、満席でして……」と説明されている最中のようだった。


けれど、私の声に若宮課長がこっちを向いたのに続いて、支倉さんまでもが私の方を見た。


……やってしまった。


この偶然を恨めしく思いながら、よりにもよって今のタイミングで店員さんに声を掛けた自分を呪いたくなる。



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