恋愛境界線

若宮課長は、気付いてないんだろうな。


生グレを頼んだ時、若宮課長も「同じ物を」と言ってくれてたことを嬉しく感じた、なんて。


生グレ一つで、以前のことを思い出して私が今、無駄にドキドキしてることなんて。


若宮課長の場合、あのマンションで一緒に生グレを作って飲んだこと自体、もう覚えてはいなさそうだけど。


追加注文したお酒が運ばれてきて、グレープフルーツを絞ろうと、それを手に取る。


「芹沢君、君がそれをすると私に被害が及ぶから、君はそのまま大人しく待ってなさい」


そう言って、課長は自分の分を手早く絞り、まだ絞っていない私の物と交換した。


「あ、りがとうござい……ます」


以前の光景がフラッシュバックして、一瞬だけあの頃に戻った様な気持ちになる。


「遥って、そこまで不器用だったっけ?」


渚の問い掛けに、「不器用ではない、と思うけど……」と答える。


あの時は、たまたま自分の目に果汁を飛ばしてしまっただけで、不器用とは違うと思う。


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