恋愛境界線

だけど、それを聞いていた若宮課長が意地悪なことを言い出した。


「君の場合は、不器用というより、大雑把(おおざっぱ)と言った方が正しいかもしれないな」


「失礼なことを言わないで下さい。私のどこが大雑把なんですか!」


よりにもよって、支倉さんの前でこんなことを言わなくても良いのに……。


渚も渚で、「それは確かに言えてるかもしれないですね」と、若宮課長に同意していて。


普段なら冗談として笑い飛ばせることでも、支倉さんの前だというだけで惨めな気持ちになる。


仕返しとばかりに、「若宮課長、そのサーモン美味しいですよ。ぜひ、食べてみて下さい!」と勧める。


支倉さんが取り分けてくれたサーモンのマリネに手を付けていなかった若宮課長は、無言でそれを口に運んだ。


グリンピースとサーモンは苦手だと言っていたくせに。支倉さんの前では、どこまでも格好つけたいということなのか。


そう思ったら、顔色一つ変えない課長のポーカーフェイスを、無性に崩してみたくなった。


私の分のサーモンのマリネを、若宮課長へと差し出す。


「私、お腹がいっぱいになってきたので、良かったらこれもどうぞ」


< 335 / 621 >

この作品をシェア

pagetop