恋愛境界線
だけど、それを聞いていた若宮課長が意地悪なことを言い出した。
「君の場合は、不器用というより、大雑把と言った方が正しいかもしれないな」
「失礼なことを言わないで下さい。私のどこが大雑把なんですか!」
よりにもよって、支倉さんの前でこんなことを言わなくても良いのに……。
渚も渚で、「それは確かに言えてるかもしれないですね」と、若宮課長に同意していて。
普段なら冗談として笑い飛ばせることでも、支倉さんの前だというだけで惨めな気持ちになる。
仕返しとばかりに、「若宮課長、そのサーモン美味しいですよ。ぜひ、食べてみて下さい!」と勧める。
支倉さんが取り分けてくれたサーモンのマリネに手を付けていなかった若宮課長は、無言でそれを口に運んだ。
グリンピースとサーモンは苦手だと言っていたくせに。支倉さんの前では、どこまでも格好つけたいということなのか。
そう思ったら、顔色一つ変えない課長のポーカーフェイスを、無性に崩してみたくなった。
私の分のサーモンのマリネを、若宮課長へと差し出す。
「私、お腹がいっぱいになってきたので、良かったらこれもどうぞ」