恋愛境界線
ふと気付けば、渚だけでなく支倉さんまで呆気に取られた様子で私たちを見つめている。
そんな支倉さんの視線に気まずさを覚え、無理やり話題を変えた。
「あー……、えっと、そういえば、支倉さんたちがこういうお店に来るなんて意外ですね」
この二人に居酒屋は似合わないし、どちらも好んでこういう店を利用しそうには見えない。
だけど、定食屋さんの時といい、ここも案外支倉さんが提案したのかもしれない。
「実は私が、若宮くんが深山さんと一緒の時に行く様なお店に行ってみたいって言って、連れてきてもらったの」
「へぇ、そうだったんですか。私や渚もここに何度か飲みに来たことがあるんですよ」
「そうなの?若宮くんは、ここで芹沢さんたちと会ったことはないの?」
「ないよ。深山君は色々な居酒屋を開拓するのが好きらしいから、毎回行く店は違うし。ここに来たのも最初の一度きりだしね」
若宮課長と支倉さんが二人で話し始めると、あっという間に二人きりの世界が出来上がってしまう。
「深山さんって、意外な趣味があったのね」と言う支倉さんに、課長は穏やかな声で返す。
「深山くんの場合、妹思いなのもあって、居酒屋が好きな妹さんの為に、色々と開拓してるらしいよ」