恋愛境界線
若宮課長の言葉は無視して店員さんを呼び、新たに飲み物を注文する。
「えっと、ハイボールを1つ」
「すみませんが、それをウイスキー抜きで」
すかさず付け加えた若宮課長の言葉に、「ハイボールのウイスキー抜き、ですか?」と、店員さんが戸惑う。
ハイボールが何で出来ているのかイマイチ判らない私は、店員さんが戸惑っている理由も判らない。
「課長、どうしてウイスキーを抜くんですか?」
「ハイボールは、実はウイスキーを抜いた方が上手いんだよ。君は知らないのか?」
「知ら……知ってますよ!すみません、ウイスキー抜きでお願いします」
知ったかぶりをする私に、店員さんは「はぁ、かしこまりました」と、どこか釈然としない返事をしていなくなった。
心なしか、支倉さんも渚も微妙そうな――というより、憐れみに近い眼差しで私を見ている。
もしかして、『それにしても、よくお酒を飲む奴だ』と、呆れられているのだろうか。