恋愛境界線

「危ない……っ」


そう声を上げたのは、渚か若宮課長か判らないけれど、気が付いた時には、腰を浮かせた若宮課長よりも先に、渚が私の右腕を掴んで支えてくれていた。


支倉さんが心配そうに、「芹沢さん、大丈夫?」と訊ねてくる。


本当に心から心配してくれているように聞こえて、何だかその優しさが余計に私を苦い気持ちにさせた。


「はい、大丈夫です。渚もありがとね」


「あぶねーなぁ。ちゃんと歩けるか?」


「大丈夫。酔ったんじゃなくて、ただの立ちくらみだと思うし」


笑って答えると、渚はゆっくりと掴んでいた手を放した。


「それじゃあ、お先に失礼します」と二人に挨拶をして、渚と一緒に店を出る。


お会計は、若宮課長たちの分も払っておこうか迷ったけれど、それだと二人の立つ瀬もないだろうからと、渚の「俺たちが飲み食いした分と、お二人の一杯目の酒の分だけ払っておこう」という提案に従うことにした。


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