恋愛境界線


「遥、やっぱりタクシー拾って帰ろう。ちょっと待ってな」


スマホのアプリを起ち上げようとしている渚を、「平気平気」と手で制する。


「この通り、普通に歩けるし。それに、私今日はこれから純ちゃん家に用があるから」


渚は一人で帰って、と告げると、苦い顔で「……俺も行く」と言い出した。


「ダメ。今日だけは純ちゃんと二人だけで飲み明かしたいの」


普段なら、じゃあ渚も一緒にと誘うところだけど、今日は渚がいたら話しにくいこともある。


「酒が飲み足りないっていうなら、今から俺がもう一軒付き合っても良いし」


「判った。それなら、マンションで飲み直そう。ね?」


聞き分けのない渚に抵抗するのは一旦諦め、拾ったタクシーに二人で乗り込む。


行き先を告げて発進するも、すぐさまタクシーは赤になった信号機の前で静かに停止した。


「すみません、やっぱり私はここで降りるので、この人だけ送って下さい」


「は?……おい、ちょっ、遥!?」


驚く渚の声を無視して、開いたドアから滑り降りる様に飛び出した。


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