恋愛境界線
続けて渚もタクシーを降りようとしていたけれど、タクシードライバーのおじさんに、「お客さん、お金!」と慌てて呼び止められ、すぐに私を追ってくることは叶わなかった。
その隙に私は、タクシーのすぐ目の前にあった横断歩道を走って渡り、反対側の道路へと移動する。
渡る前に点滅し始めていた信号は、私が渡り終わるのと同時に切り替わった。
車が行き交い始める中、渚からの着信が私のスマホを忙しなく振動させる。
だけど、それには出ることなく歩き始めた。
渚、ごめん。本当にごめんね。
心の中で謝りながら、つんのめりそうな勢いで駅までの道のりを急ぐ。
課長と喋っていると楽しくて、例え、今日みたいに頭にくる様な時でさえも、もっと一緒に喋っていたいって思う。
ずっと一緒に居たいと願ってしまう。
そう思ってしまうことが、支倉さんに対する後ろめたさに繋がって、一緒にいるのが辛くなる。