恋愛境界線

「でも、相手はあの渚だよ?そんな風には見られないよ」


笑い飛ばそうとしたけれど、昨日の今日だから笑う気力もない。


引き攣り笑いの様な表情で軽く流す。


けれど、いつもは他人の心の機微に(さと)い純ちゃんが、今日は珍しく食い下がった。


「どうして?渚なら、きっと遥のこと大事にしてくれるよ?相手が渚だったら、遥がこんな思いをすることは二度とないって、私が保証してあげる!」


そして、もう一度


「だからさ、渚のこと好きになりなよ」


そう語りかける声には、静かな優しさが満ちていた。


押しつけがましさなんて微塵も感じさせず、まるで頷いてしまいたくなるほどの。


春の陽だまりの様に穏やかな慈愛に満ちた表情で、私にそっと微笑みかけてくる。


「……わかんないけど、でも、もし好きになりそうになった時には、素直にそうする」


私の答えに一応は満足したのか、小さく頷いて、それ以上は何も言ってこなかった。


< 356 / 621 >

この作品をシェア

pagetop