恋愛境界線
「でも、相手はあの渚だよ?そんな風には見られないよ」
笑い飛ばそうとしたけれど、昨日の今日だから笑う気力もない。
引き攣り笑いの様な表情で軽く流す。
けれど、いつもは他人の心の機微に敏い純ちゃんが、今日は珍しく食い下がった。
「どうして?渚なら、きっと遥のこと大事にしてくれるよ?相手が渚だったら、遥がこんな思いをすることは二度とないって、私が保証してあげる!」
そして、もう一度
「だからさ、渚のこと好きになりなよ」
そう語りかける声には、静かな優しさが満ちていた。
押しつけがましさなんて微塵も感じさせず、まるで頷いてしまいたくなるほどの。
春の陽だまりの様に穏やかな慈愛に満ちた表情で、私にそっと微笑みかけてくる。
「……わかんないけど、でも、もし好きになりそうになった時には、素直にそうする」
私の答えに一応は満足したのか、小さく頷いて、それ以上は何も言ってこなかった。