恋愛境界線

一瞬、面食らった様にたじろいだ渚が、すぐに気を取り直して得意気に笑った。


「だって、ここの鍵持ってる人間なんて、遥か管理人くらいだし」


「そう、なの……?」


その事実に今度は私が驚くと、渚は「他に誰に渡すんだよ」と答えた。


そう言われると、渚がスペアキーを渡しそうな相手なんて、すぐには浮かんでこないけど。


それにしても、私に渡す位なら家族にでも渡した方が良いんじゃないのかな、なんて考えが浮かぶ。


そんなことを言ったとしても、「家族に渡してどうしろっての?」とか返されそうだから、あえて言わないけれど。


「でもさ、渚。いつ誰が襲ってくるか判らないんだから、ドアを開ける時はちゃんと確認しないと!」


そう告げると、「はいはい」と、おざなりな返事で軽く流された。


玄関で靴を脱ぎ、今ではすっかり私専用となっている来客用のネイビーのスリッパに履き替える。


「これ、どうせ私しか履かないなら、パステルカラーのグリーンとかピンク色が良かったなぁ」


「それより、遥。……大丈夫か?」


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