恋愛境界線
ここに来てからずっと、昨日のことには触れられたくなくて、あえて関係のない、どうでもいいことばかりを並べ立てていたのに。
いきなり核心に触れてきた渚に、それでも嘘はつけない。
昨日、あんな風に置き去りにしたのに、怒りもしないで私のことを心配してくれた。
渚がどこまで気付いていて、何に対して大丈夫か?と訊いてくるのかは判らないけれど。
私もそれを事細かに訊ね返したり、昨日のことを詳しく説明することは出来そうにない。
「……うん、大丈夫。もう全然、平気だから」
それより、渚――と、さっきの渚のセリフの様に、そっと名前を呼ぶ。
「昨日はごめんね。それから、ありがとう」
別に変なことは何一つ言ってないのに、渚はじっと私を凝視した。
凝視してきたのは渚からで。だけど、絡まった視線を先に逸らしたのもまた、渚からだった。