恋愛境界線
だから、ちゃんと考えろよ?と言ってくれた渚に対して、「うん……」と頷いた。
けれども、この状況で、『いいよ』のセリフは、回し車のことじゃなくてそっちだったのか――とか思った私は、本当に有り得ない。
渚は、こんな私でも本当に良いのだろうか?
もし良いのだとしても、こんな女を好きだなんて……と、別の意味で渚のことが本気で心配になってくる。
自分のことを好いてくれてる渚に対して、こんなことを思うのもおかしな話だけれど。
「お前、考えるって言っても後ろ向きじゃなく、前向きに考えろよ。前向きに」
押し付ける様に『前向きに』と言われると、半ば脅されている様な気になってくる。
「……前向きに検討させて頂きます」
曖昧なまま話を終わらせて、この場を切り抜けようとする政治家の答弁みたいな返答になってしまった。
ロマンスの欠片もないやり取りだけど、変に真面目なよりもこっちの方がらしくていい。
それに、前向きに検討する――その言葉に偽りはないから。