恋愛境界線
scene.19◆ 望むのはそれだけだから
□□□□□□


「──遥」


フロアに備え付けられている自販機の前で、背後から声を掛けられた。


ボタンを押すと同時に背後を振り向くと、渚が駆け寄ってきた。


「これ、テーブルの上に置きっぱになってた」


ズボンのポケットから取り出した腕時計を、押し付ける様に私に差し出してくる。


時間なんて、PCやスマホで確認出来るものの、それでもやはり腕時計がないことを不便に感じていたから、渚が届けに来てくれたのは素直に有難かった。


「わざわざ有難う」と、私がお礼を言い終える前に、珍しく渚が言葉を被せてきた。


「悪い、急な出張が入ったからすぐ戻らないといけないんだ。今もトイレに行くって言って抜けてきたし」


本当に急いでいるらしく、そう言い終えた渚は既に踵を返している。



< 367 / 621 >

この作品をシェア

pagetop