恋愛境界線
仕事なんだし、渚は分刻みで動いていることが多いのだから、私のことなんて気にしなくても良いのに。
こんな時でも私を気遣ってくれる渚に、何だかくすぐったい様な気持ちになる。
「気にしなくていいから、早く戻りなよ」
投げ掛けた私の言葉に、渚が再び「悪い」と返してくる。
何も悪いことなんてないのに、と思いながら笑っていたら、渚が突然振り返った。
「それと、今夜の鍋も無理になったから、代わりに純でも呼んで冷蔵庫の食材を片しといて」
渚はそう言うと、今度こそ私の返事を聞かずに足早に去って行った。
ふふっ、と意味もなく笑い、ボタンを押したまま放置していた自販機の方を振り向いた瞬間
「……ヒッ!」
いつからそこに立っていたのか、無言でこっちを見ていた若宮課長の姿に短い悲鳴が洩れた。
「失礼だな、君は。人を化け物みたいに……」