恋愛境界線

気分がどん底まで落ち込みそうになったその時、「でも」と深山さんが待ったを掛けてくれた。


「それは、芹沢さんだけの所為じゃないと思いますよ。若宮さん、今色々大変みたいだし」


若宮さんみたいな人でも、案外余裕がなくなることだってあるんじゃないかな、と。


「あ、あの!若宮課長が、大変……って?」


そこだけが耳に残って、まだ喋っていた深山さんの言葉を思わず遮ってしまった。


「あー、うん、まぁ……、それは色々とあるだろうから」


曖昧に言葉を濁す様は、明らかにそのことを知っているけれど、私には話せないことを表していて、失言だったと後悔している様に見える。


ほんの数十秒前まで、若宮課長の言葉に傷ついたり落ち込んだりしていたのに。


心の奥では、若宮課長なんて好きじゃないからもうどうでもいいと、投げ遣りな気持ちにさえなっていたのに、今の深山さんの言葉で、若宮課長のことを本気で心配してしまうなんて。


その上、これは部下として心配してるのだと、心の中で自分に言い訳までしてるのだから、本当に救いようがない。



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