恋愛境界線
これ以上、私にはこの話題について触れられたくないのか、深山さんはわざとらしく腕時計に視線を落とした。
そして、「そろそろ行かないと」と、残っていたコーヒーも一気に飲み干した。
「そうだ。芹沢さん、手を出して」
どうしたのだろう?と首を傾げつつも、言われた通り、深山さんに向かって手を差し出す。
スーツのポケットから取り出した物を、深山さんが私の手の平に載せた。
「……飴?」
「妹にもらった物だけど、今日は特別、芹沢さんにあげる」
妹からもらったという飴を私にくれる深山さんに、「有難うございます」と微笑む。
「──それと、若宮さんは頑張ってる人を、自分からは絶対に見限らない。そういう人だよ」
それだけ言うと、それじゃあと背を向け、颯爽と立ち去って行った。