恋愛境界線

「あの……、私、魚を食べたそうな顔、してます?」


「知らないよ。少なくとも、そんなチワワみたいに目を潤ませて魚を見ていられたら、物乞いされている気分にはなる」


「目が潤んでいるのは、ご飯粒が鼻に入ったからです」


「君は、ご飯を口ではなく鼻から食べるのか?」


さっき、()せた時に入ったんです!と、反論しようとしたけれど、課長はしれっとした態度で、「君は目から鼻水も流せるみたいだからな」なんて、一昨日の些細な一件を持ち出す。


しかも、それだけ言うと、若宮課長の視線と意識は再び目の前の定食に戻された。


それ以降は、さすがに再び声を掛けることに躊躇いを感じて、というか、心が折れてしまい、黙って残りのランチを完食した。


「──若宮課長、お先に失礼します」


トレイを持って立ち上がると、無視されると思っていた課長の口から「芹沢君」と名前で呼び止められた。


「君のブラウスの、その所々黄ばんだシミは(よだれ)か何かか?」


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