恋愛境界線

渚との通話を終えると、すぐ側にいた若宮課長の存在を思い出した。


「えっと、すみませんでした……」


なんとなく気まずさが漂い、意味もなく謝罪の言葉が口を衝く。


「──用事って、緒方君と食事だったのか。待ってるんだろう?早く行きなさい」


「はい。それじゃあ……、お先に失礼します」


ぺこりと会釈をして立ち去ろうとしたら、次の瞬間、若宮課長に腕を引かれた。


「えっ――…?っと、若宮課長……?」


「あ、あぁ、すまない。あー…、そこに置き忘れている紙コップだけど」


「あ、すみません!今、捨てて帰ります」


電話に出る際に持っているのが面倒で、窓枠の上に置いたまますっかり忘れていた。


それを捨てに引き返そうしたら、またしても若宮課長に引き留められた。


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