恋愛境界線
それでも、駐車場に着くまでには何とか心を落ち着かせ、渚の前では平静を装った。
渚に連れて行かれたのは、タイ料理屋や居酒屋ではなくてフレンチのお店だった。
しかも、比較的フランクなお店ではなく、妙に畏まった雰囲気のお店で、それが余計に緊張を煽る。
食前酒を出され、それを一口飲んだところで、思い切って私の方から切り出した。
「あのさ……、例の噂って、本当?」
「例の噂って……?あー、もしかして、もう遥の耳にも入ったのか?」
曖昧に頷くと、「早いな。もしかして、うちの親父から聞いたとか?」と訊かれた。
渚のお父さんも知っているなら、やっぱりあの件は本当だったんだ……。
アミューズを運んできたシェフ・ド・ランが、私たちの席から去ったタイミングで口を開いた。
「……それで、渚はどうするつもりなの?」