恋愛境界線
嘘だと判った瞬間、頭に血が上ったけれど、ここで怒ったら、それはそれで私が若宮課長のことを好きだと示しているみたいで、これ以上は怒るに怒れない。
冷静さを取り戻すと、そんなことを知ってどうするんだろう?とか、渚の目に私の反応はどう映ったんだろう?とか、そんな疑問が頭に浮かんだ。
それを、直接渚に訊ねることは出来なかったけれども。
本格フレンチは、ポワソンもデセールも申し分なくて、最後のプティ・フールまでしっかりお腹に収めた。
確かに美味しかったはずなのに、お店を出る頃には満腹感だけが残り、味は不思議と思い出せなかった。
それは料理のせいじゃなくて、食事をしている間の私たちの空気が微妙だったせいだ。
結局、料理を食べ終えるまでの間に、私は渚に対して例の件に関する答えは出せなかった。
渚も渚で、若宮課長の件で嘘を吐いてからというもの、心なしか口数が減ったように感じる。
「……遥、」