恋愛境界線
冗談の様なことを、そんなに至極真面目な顔で訊かれても対応に困る。
ここは、若宮課長なりのジョークと受け取って、私もジョークで返すべきなのか。
はたまた、そのまま素直に受けて、「いえ、違いますけど?」と、若宮課長並みのクールさで返すべきか。
……どっちも無理。そんな真似、若宮課長相手に出来っこない。
結局、薄ら笑いに近い、引き攣った笑顔を浮かべ、ソフトな対応で返す。
「そんな訳ないじゃないですかー。さっき、ほんのちょっと、スープを零しちゃって」
「ご飯といい、スープといい、それのどこが“ほんのちょっと”なんだ?ご飯もまともに食べられないなんて、君は赤ん坊か?まったく」
さっきのはジョークに見せかけた嫌味で、今のはツッコミという名の説教ですか。
「それじゃあ、失礼します」
“逃げるが勝ち”という言葉が、頭の中に忙しなく点滅していた。