恋愛境界線
お店を出たタイミングで渚に名前を呼ばれ、少しだけドキッとしながら振り返る。
「何……?」
「あー、ほら。思う存分、食えた?」
返事を聞かせて欲しいと言われるんじゃないかと構えていたのに、妙な質問に思わず吹き出してしまった。
「何それ」と笑いながらも、「お腹いっぱいだよ」と答える。
「それならいーけど。電話で、思う存分食わせてやるって言ったろ?だから一応気になったっつーか」
「あれだけ食べたっていうのに、私の胃、どんだけ大きいと思ってんの!?」
両腕で大きな輪を作ってみせた渚の腕を、そんなわけないでしょ、と言う代わりに軽く叩く。
「……渚、ごちそうさま」
「人のことを叩きながらご馳走様って、言葉と行動がかみ合ってないよな」
渚は、からかっている様にも、苦笑している様にも見える表情で笑った。