恋愛境界線

ずっと、このままで。


渚と今の関係を保っていたいと思うのは、卑怯なことなのかな……。


ずっと、このままでいられたらいいのに。


私に二択を迫った渚のことをずるいなんて言ったけど、ずるいのはきっと私の方だ。


今の渚が、私に本当に訊きたいことは何なのか察せられるのに、あえて気付かないフリをしているのだから。


私の二歩先を歩く渚の背中。大きな手。


「……渚」


「んー?」


「……ごめん、何でもない。ただ呼んでみただけ」


あの手を取ればきっと幸せになれるのに、どうして躊躇(ためら)ってしまうんだろう。


今はまだ、「わけわかんねー」と苦笑する渚に、心の中で『もう少しだけ』と願った。


もう少しだけ、待って。


もう少しだけ、このままで――と。



< 401 / 621 >

この作品をシェア

pagetop