恋愛境界線
少しだけ沈んでいたのを見られたかもしれないけれど、そのことに触れられない様に笑顔で隠す。
「渚、どうかした?ご飯ならもう出来上がるから、あと少しだけ待ってて」
「喉が乾いたから飲み物を取りに来ただけ」と言いながらも、渚は冷蔵庫のドアを開けずに私を見つめてきた。
「……遥、今日何かあった?」
やっぱり見られてたか、と思いながらも明るい表情は崩さずに答える。
「んー?別に何もないよー。強いて挙げるなら、財布を忘れたことくらい?」
「知ってる。他には?……例えば、若宮さんと何かあった――とか」
「若宮課長と?何もあるわけないでしょ。まったく、どういう思考回路してるんだか」
肩を竦めてみせた後、「そういえば……」と、数歩移動して屈み込む。
「渚、ワインも買ってきたの。これ、開けよう!」
冷蔵庫の前に置いておいたワインが入った細長い紙袋を手にして姿勢を戻すと同時に、背後から渚に抱きしめられた。