恋愛境界線
「な、ぎさ……?えっ、何?どうしたの?」
「どうしたは、こっちのセリフ。昔から、遥は落ち込んでる時こそ無駄に明るく振る舞うんだよな」
そんなことない、と言いたいのに、反論する前に私を抱きしめる渚の腕の力が強まった。
振り向こうにも、渚の腕の中にいては顔を動かすことさえ出来ない。
私を背後から抱きしめたまま顔を僅かに伏せた渚が、私の耳元で囁いた。
「保留にしてた答え、いま聞かせて」
俺との結婚、考えて。
そう紡いだ言葉が、はっきりと耳に届いた。
祈る様に耳元で囁かれた言葉。
懇願する様に私の肩先に埋められた渚の頭。
渚の声と温もりに絡め取られ、気付いたら小さくコクリ、と頷いていた。
それが渚に伝わったのか、肩先で渚がゆっくりと顔を上げる気配を感じた。