恋愛境界線
キスされる――。
そう思って、とっさにギュッと目を瞑る。
知らず知らずの内に俯いてしまっていたらしく、顎の下に添えられた手に上を向かされる。
瞼の裏の光が遮られ、目を閉じていても覆いかぶさる様に迫ってくる渚の気配が感じられた。
渚の唇が、僅かに私の唇を掠めたのが先か。
あるいは、私が突き飛ばした方が先だったのか。
気付いた時には、
「──ぃ、っ!」
声にならない声が、私と渚を隔たらせていた。
ハァ、ハァ、と乱れた吐息だけが、静かな空間に響く。
私に突き飛ばされた反動で後ろによろけた渚は、その場で固まってしまった様に静止している。