恋愛境界線
scene.22◆繋がれた手はそのままに
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渚が出て行き、一人残された部屋の中で暫くじっとしていたけれど、ここにいるとどうしても渚との思い出が頭に浮かんできて、気持ちを落ち着けるどころか、余計に胸が苦しくなってしまう。


だから、私を気遣って自ら出て行ってくれた渚には申し訳ないけれど、渚が戻ってくる前に黙ってマンションを後にした。


一人になりたい様な、一人になりたくない様な、そんな不安定な気持ちの中で真っ先に浮かんだのは純ちゃんで。


だけど、渚を私がくっつけば良いと思ってくれていた純ちゃんに、今日のことをまだ話す気にはなれない。


渚が出て行ってからもう二時間近く経っていて、渚は今どこにいるのか考えてみる。


もしかしたら、純ちゃんのところかもしれないという考えが真っ先に浮かんで、尚更純ちゃんの所へは向かえなかった。


渚のマンションを出てふらふらと歩きながら、何の目的もなく電車に乗る。


気付けば、降りた先は若宮課長のマンションから最寄りの駅だった。


……馬鹿だ。私は一体何をやってるんだろう。


そう思ってすぐに引き返そうとしたけれど、こんな時間に偶然にも若宮課長に遭遇するはずもない。


無駄な心配をすることはやめて、気の向くまま歩き始めた。


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