恋愛境界線
外では電車の動いている音が遠くに聞こえる。
カーテンの引かれたこの薄暗い部屋では、時間が静かにゆったりと流れている様に感じられる。
ごちゃごちゃと余計なことを考えてしまうかと思ったのに、不思議と心は落ち着いている。
もう二度と、ここに足を踏み入れることはないと思っていたのに、またこうして、自分がここに――若宮課長のマンションに居ることがなんだか不思議で。
ここに居た頃のことを思い出して、少し切ない様な、懐かしい様な、そんな気分になる。
けれど、また熱が上がってきたのか、そんな感傷に浸り続ける余裕すらなく、次第に瞼が重くなってきた。
無意識に鼻の上まで引き上げた布団からは、微かにシトラスの香りがした。
課長の匂いだ――そう思ったら妙に安心してしまい、私の意識は深い眠りの底へと沈んで行った。
まるで、幸せに包まれている様な、そんな一日だった――。