恋愛境界線
どうしようもないことなのに、どうしようと焦る気持ちで一杯になりながら周囲を見渡す。
野次馬で出来た人だかりの中に視線を巡らせれば、呆然とマンションを見上げて立っている隣人の姿を見つけた。
普段は挨拶を交わす程度の仲だけど、見知った顔に心強くなり、思わず駆け寄った。
「あのっ、これ……、どうしたんですか!?」
「よく判んないんだけどぉ、中に居たら急に火災警報機が鳴り出して、誰かのイタズラかと思ったら本当だった、みたいな?」
私よりも年上だと思うけど、私よりも年下の様な口調で喋るその声に、「はぁ……」と曖昧な相槌を打つ。
「てかさ、うちらの部屋も危ないよね?」
「火が燃え移ってるかそうでないか、微妙な所ですよね……あれ」
煙が立ち上っている真下の階ともなれば、程度の差こそあっても被害は確実なはず。
「ってことは、当分住めなくない?そしたら、どうすれば良いのって感じじゃない?」
隣人の言葉に『そうだ、どうしよう……』と同じ感情を抱くものの、未だに目の前の光景に実感が伴わない。