恋愛境界線
「うちは早くから両親がいなくなってしまい、私のことは姉が育ててくれた様なものだから、頭が上がらないんだ」
「……そう、だったんですね……」
初めて聞く若宮課長の家庭の事情に、迂闊に触れてしまったことを恥じる。
そんな私の心情を察したのか、課長は重くなりかけた空気をサラッと変えてくれた。
「まぁ、実際のところは、いい性格をしているから逆らえない、という要因の方が大きいけれどね」
「ふふっ。課長がそんな風に言うなんて、ちょっと会ってみたいです」
「それなら、今度私が呼び出された時には、代わりに君が手伝いに行ってくれ」
冗談交じりに肩を竦めた若宮課長が、再びカレーライスを食べ始める。
邪魔をしない様に食事が終わるまで黙っていようかと思ったけれど、沈黙の時間が勿体なく感じられて。
「そうだ、もう一つ気になってたことがあるんですけど」
せっかくだからと、密かに気になっていたことを、この機会に訊ねてみることにした。
「課長は女性が好きじゃないみたいなことを言ってましたけど、それならば、どうしてうちの会社に就職したんですか?」