恋愛境界線
それから一時間ほど経って、ようやく現場は落ち着きを取り戻したものの、火災があった部屋の真下に位置する私の部屋は、延焼こそ免れたものの、焦げた酷い匂いが充満し、水損被害も遭ってとても住める状態ではない。
とりあえず、今後についての詳しい話し合いは後日改めてということになり、私は無事だった物の中から必要最小限の物を旅行用のキャリーバッグに詰め込み外に出た。
そして、駅へと向かいながら、一番親しい友人に電話を掛ける。
「もしもし、純ちゃん?――そう、私、遥。実は……あのね、突然で悪いんだけど、今日泊めてもらえないかなぁ、なんて」
理由を訊かれ火事の一件を持ち出すと、初めはは冗談だと思われたけれど、本当だと判った途端に、純ちゃんからは気遣う言葉とともに「良いよ」と返ってきた。
『ただ、言いにくいんだけど、最近彼氏と同棲を始めたばかりで、その、数日くらいなら大丈夫だけど、それ以上となると……』
電話越しでも、純ちゃんが本当に申し訳なさそうにしているのが伝わってくる。
今日にしても、これから私が泊まるとなると、きっと純ちゃんの彼氏は別の場所で寝泊まりすることになるわけで。
そう思ったら、今日泊まらせてもらうことすら、気が引けてきた。