恋愛境界線

「破れ鍋に綴じ蓋?……何の話だ?」


「いや、えっと、私と課長の関係が、案外そう呼べるんじゃないかなぁ、なんて」


あはは、と乾いた笑いを浮かべた私に、課長が「失礼だな」と目を細める。


「君は、破れ鍋だろうが綴じ蓋だろうが、確かにその通りで、どちらでもいいかもしれないが、私まで一緒にしないでくれ」


「じゃあ、私は破れ鍋の方でいいですから、綴じ蓋の役は課長に譲りますよ。それならどこも壊れてないので、文句ないですよね?」


どっちが破れ鍋で、どっちが綴じ蓋かなんて、一体全体なんの話をしているのか。我ながら、大人の男女二人がする様な話題とは思えない、色気も雰囲気もない会話だ。


「本当に、何を言ってるんだ君は?言葉の意味をちゃんと理解して使っていないだろう?」


「判ってますよ。破損した鍋にだって当て嵌まる蓋がある様に、私にもちゃんと相応しい人がいるって、そういう意味――」


ただの例えだとしても、壊れてない方に例えられた方がいいかと思って、蓋を課長に例えてしまっただけなのに、今の私の説明だと、そういう意味で言ったわけじゃなくても誤解をされ兼ねない。


そう。まるで私には課長がお似合いだと。お互いに相応しいと、遠回しにそう言っているみたいになっちゃう……!


「や、課長、決してそういう意味で言ったわけじゃないので、誤解しないで下さいね!?言葉の綾っていうか……。つまりは、私は壊れた鍋だとしても、課長は壊れてない蓋だって、単にそう言いたかっただけで、深い意味は全然なくて……!」


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