恋愛境界線
「誤解しているのは君の方だろう。綴じ蓋は、“閉じるための蓋”という意味ではない」
「はぁ……」
「縫い合わせるという意味の綴じるだから、“修繕した蓋”ということを指している」
つまり、鍋も蓋も壊れていることに変わりはない――という、私が勘違いしていた事実を突きつけてきた。
お蔭で、何の話をしていたのか、今度こそ本当に会話の流れを完全に見失ってしまった。
「さて、これは私が洗っておくから、芹沢君はもうやすみなさい」
「せめて、シャワーを浴びても良いですか?」
発熱したせいで汗を掻いてしまったから、軽くでもそれを洗い流したい。
課長は病み上がりの私を心配していたけれど、「本調子じゃないんだから、手早く済ませなさい」と、渋々オッケーしてくれた。
いつもより手短にシャワーを済ませ、ドライヤーで髪を乾かしてから戻ると、課長は後片付けをすっかり終えていて、入れ替わる様に私に「おやすみ」と告げ、浴室へと消えて行った。