恋愛境界線
「とにかく、一度ガツンとぶつかってみろよ」
額を押さえながら、わざと恨みがましい表情を作って渚を見つめる。
「何も、そんなに私が失恋する姿を見たがらなくても……」
「そんなんじゃねーよ。そうじゃなくて……、遥がいつまでもそんなんじゃ、俺が報われないだろーが」
私を責めるだとか、未練がましさだとかは感じさせない口調と声色。
むしろ、軽口を叩く様な口調だからこそ余計に、渚が私に気を遣わせない様にしていることが伝わってくる。
思わず、ごめんねって言いそうになって、だけどそれは、いまの渚に対して言う言葉じゃないと思った。
そう思って言葉を逡巡していると、「そこで黙られても困んだけど」と、渚は少しだけ弱った表情を見せた。
「そろそろ、行くわ」
「あ、うん……」
立ち上がった渚につられて、私も思わずベンチから立ち上がった。