恋愛境界線
一緒に立ち上がった私に、渚が「ちゃんとメシ食えよ」と、スティックタイプのシリアルバーを手渡してきた。
「こんなの持ち歩いてるなんて、渚こそ、いつもちゃんとご飯食べてるの?」
「食ってるよ。それは非常食用」
何それ、と私が笑っている間にも渚は「じゃーな」と既に歩き出していて、立ち尽くしたまま渚の背中を見つめていると、わずか数メートル先で歩みが止まった。
突然静止した後ろ姿に、どうしたのかと声を掛けようとすると、私の方を振り返った渚は、その場で少しだけ声を張り上げた。
「あのさ、言おうかどうしようか迷ったんだけど、やっぱ一応言っておく」
幸い、周囲には誰もいないけれど、いつ人が来るか判らない。そんな中で渚が何を言おうとしているのか。
本当は慌てて側に駆け寄りたかったけれど、渚の雰囲気はそれを許してはくれない。
「あの二人のことなんだけど――付き合ってないって」