恋愛境界線

ということは、私と渚が揉めたあの日だ。


渚が私の代わりにマンションから出て行ってしまったあの日は、途中から雨が降り出して、その所為で私は風邪をひいてしまったのだから。


その日に会った若宮課長も、確かに女装をしていたから、きっと純ちゃんが連れて行かれたのは、若宮課長のお姉さんの店だと思う。


「もしかして、この人って、遥と同じ会社の子だったりする?」


「え、どうして……?」


「何か、お客さんと揉めてるみたいだったから。男の人がその人に、会社にバラすぞみたいなこと言ってて」


純ちゃんがファイルを閉じ、PCをシャットダウンした。


「綺麗な人で印象的だったし、ちょっと物騒な雰囲気だったから大丈夫かなって気になって、それで記憶に残ってたんだけど」


「確かに同じ職場の人ではあるけど……。その時、相手が何をバラすって言ってたのか聞こえなかった?」


「ううん、詳しいことまでは聞こえなかったけど、でも、遥の職場って副業禁止でしょ?だから、そのことじゃない?」


純ちゃんの考えでは、社内規定違反を盾に取って関係を迫られてたりしてるのかも――という推測。


だけど、きっと違う。もし、店で働いている女性の正体が若宮課長だと気付いたのなら、バラすっていうのは、副業のことよりも女装の方だ――。


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