恋愛境界線
だって、いくら世の中が多様性を受け入れる流れになってきてるといっても、実社会ではまだまだ浸透していないから、そっちの方が相手に与えられる社会的ダメージは大きい。
でも、そういうことをしそうな人って誰……?
「純ちゃん、その人ってどんな格好だった?」
「どんなって、うーん。その女の人より10センチくらい背が高かった気がする。歳は結構若かった様な……」
その男性は、純ちゃんのテーブルからは殆ど後ろ姿しか見えなかったらしく、帰り際に横顔をチラッと見ただけらしい。
これといった特徴もないから、見当をつけることも難しい。
思わず考え込んでしまった私に、純ちゃんがそっと声を掛けてくれた。
「遥がその人の力になってあげるのが難しいなら、私からそれとなく渚に話してみよっか?」
社長秘書という立場の渚なら、困ったことに手を貸してくれることも、色々と手を回すことも可能だろうけど……。
「その前に、私が一度本人にそれとなく話を聞いてみるよ」
あの日、そんなことがあったにもかかわらず、一部下である私を心配してくれた、どこまでも人の好い若宮課長に――。