恋愛境界線

  * * *


「浅見先輩、若宮課長を見掛けませんでした?」


既に終業時間を迎えている社内で、本人不在となっている若宮課長のデスクに視線を向ける。


「課長なら、もう帰ったわよ?」


「えっ、今日は一段と早くないですか?」


仕事中はプライベートな話をする隙なんてないから、帰りに若宮課長を(つか)まえて、この間の純ちゃんが話してくれた一件について、若宮課長本人に問い質そうと思ったのに。


その為にも、今日は意地でも定時で切り上げて帰ろうと仕事を頑張ったのに。


まるで、それを見透かしたかの様に、今日に限っていつもよりも早く帰ってしまうなんて。


こんなことなら、先にお手洗いを済ませたりせず、若宮課長を待ち伏せしておけば良かった……。


「なにか急ぎの用でもあった?課長、5分くらい前に帰ったばかりだから、もしかしたらまだ社内から出てないかもよ?」


「それなら、ちょっと追い掛けてみます。すみませんが、お先に失礼します!」


< 493 / 621 >

この作品をシェア

pagetop