恋愛境界線
* * *
「浅見先輩、若宮課長を見掛けませんでした?」
既に終業時間を迎えている社内で、本人不在となっている若宮課長のデスクに視線を向ける。
「課長なら、もう帰ったわよ?」
「えっ、今日は一段と早くないですか?」
仕事中はプライベートな話をする隙なんてないから、帰りに若宮課長を捉まえて、この間の純ちゃんが話してくれた一件について、若宮課長本人に問い質そうと思ったのに。
その為にも、今日は意地でも定時で切り上げて帰ろうと仕事を頑張ったのに。
まるで、それを見透かしたかの様に、今日に限っていつもよりも早く帰ってしまうなんて。
こんなことなら、先にお手洗いを済ませたりせず、若宮課長を待ち伏せしておけば良かった……。
「なにか急ぎの用でもあった?課長、5分くらい前に帰ったばかりだから、もしかしたらまだ社内から出てないかもよ?」
「それなら、ちょっと追い掛けてみます。すみませんが、お先に失礼します!」