恋愛境界線
一階ロビーの受付前を通り過ぎ、ここまでに課長と遭遇することなく会社の外へ出る。
もしかしたら、まだ社内のどこかのフロアにいるかもしれないと、スマホを取り出した。
社内にいるのであれば、ここで若宮課長が出てくるのを待とうと思いながら通話ボタンに手を掛けた時、道路を挟んだ向こう側に、若宮課長と男の人が並んで歩く姿が視界に映った。
見覚えのある横顔に、すぐさま広報の奥田さんだと気付く。
珍しい組み合わせだけれど、でも普段、社内で一緒に居るところを見ないだけで、奥田さんと若宮課長が同期であることに思い当たれば、特別珍しい組み合わせでもない。
対照的なタイプに見えるあの二人が、どんな話をするのか想像はつかないけれど、私が知らないだけで、案外ウマが合うのかもしれないし。
とりあえず、駅の方向に向かっている様子の二人から適度に距離を保ちつつ、後を追って自分も駅の方へと向かった。
時折、二人が会話を交えている様子は判るものの、話している内容までは聞き取れないのがもどかしい。
少しでも何か聞き取れないかと、気付けば駅へ着いた時には、無意識の内に二人との距離が縮まっていたらしい。
ふいに振り返った奥田さんが、『あれ?』とでも言う様に、背後にいた私に視線を留めた。