恋愛境界線

若宮課長と二人になってしまった駅の構内では、周囲の人たちが邪魔そうに私たちを避けて、足早に通り過ぎて行く。


さてどうしようかと悩んでいる内にも、若宮課長は私を置き去りにして、改札口を抜けようとしていた。


それに気付き、慌てて後を追う。


バッグから定期券代わりのSuicaを取り出そうとすると、その拍子にするりとスマホが落下した。


思わず、「あっ……!」と声を上げてしまう。


拾おうとすれば、今度は自分のつま先で蹴ってしまい、改札口のわずか先まで滑って行き、余計に遠ざかってしまった。


周囲から不審な目で見られた恥ずかしさに、俯きながら急いで改札口を抜ける。


落としたスマホを私が拾うより先に、わざわざ引き返してきてくれた若宮課長がそれを拾い上げた。


「どうして君は、そう落ち着きがないというか、そそっかしいんだ?」


「すみません。それから、有難うございます」


受け取る時に僅かに触れた指先は、心なしかいつもより熱い。


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