恋愛境界線
一定の距離をキープしたまま黙って課長の背中を追うと、改札口を抜けた所で堪りかねた様に若宮課長が振り返った。
「……君はストーカーか?一体、どこまで付いてくる気なんだ?」
「マンションに着くまでの間だけで構わないので、話を聞いてもらえませんか?」
これじゃあ、ストーカーというより勧誘みたいだ、と自分で思いながら、若宮課長の前に回り込む。
「聞くだけで良いなら、うちに着くまでの間、君の話を聞いてあげようじゃないか」
聞くだけ、の部分を強調した若宮課長に、早速純ちゃんから聞いた話を持ち出した。
「私が熱を出して課長の所に泊めてもらった日、課長は女装してましたよね?」
そう切り出した途端、さっきまで私と目を合わせようともしなかった人間が、思いっきり視線をぶつけてきた。
「君は、私にこうして付き纏ってまで、わざわざ訊ねたいことというのが、それなのか?それをネタにまた脅す気か?」
「誤解しないで下さい。その日、純ちゃんが行ったお店で課長を見掛けたらしくて、課長が男の人と揉めてるっぽかったって聞いたので、ちょっと心配になったというか……」
さすがに、会社にバラす云々まで聞いたとは言い出しづらく、そこは曖昧にぼかした。