恋愛境界線
「それじゃあ……、君は本当に、緒方君の所に居たわけじゃないのか」
「はい、今そう言いましたよね……?」
「それなら、どうしてもっと早く言わないんだ。というか、どうして住んでいる場所を言わないんだ、君は」
「だから、どうしてわざわざ課長に報告する必要があるんですか?」
別に付き合ってるわけでもないのに――なんて言葉が頭に浮かぶ。
そんな自分の言葉にさえ、心がチクリと痛んだ。
「それは……、アレだ。住んでいる場所によっては、通勤手当が変わってくるだろう」
「あぁ、それで。ですが、その点ならご心配なく。抜かりはないので」
主に、渚が。
その辺は抜かりなく、私が気付く前に会社への住所変更手続きを、勝手にしてくれたのだ。
抜かりがないのは渚だということは隠したまま、勝ち誇る様ににっこりと笑った。