恋愛境界線
一瞬、そんな予想をしてしまったけれど、視界に映った横顔はどこか見知った顔で――。
「あのっ……。失礼ですが、もしかして、若宮課長のお姉さんか、妹さんですか?」
思わずそう声を掛けた私に、相手は驚いた様にビクリと肩を揺らした。
マスクをしていて口元は見えないけれど、目元は若宮課長に似ている。
案の定、向こうは困惑した様子を浮かべ、おずおずといった感じで頷いた。
向こうからしてみれば、私が一体誰なのか判らなくて不審に思われるのも無理はない。
視線を逸らしたまま、そそくさと中へ入って行こうとする彼女を慌てて引き留めた。
少しだけ開いたドアの隙間からは光が漏れてくることもなく、向こう側に人の気配も感じられない。
「私、若宮課長と同じ職場で働いている芹沢遥と申します。もしかして、若宮課長はご不在でしょうか?」
私の質問に対して、相手は口を閉ざしたまま俯き加減で小さく頷く。
あんなにグサグサと物を言う課長と血が繋がっているとは思えないくらいに、シャイで人見知りをする性格の様だ。