恋愛境界線
私たちが乗り込んでから、各階ごとにその都度何人か降りて行き、最終的に四角い空間には私と支倉さんの二人きりになった。
普段ならば何てことはなくても、昨夜の一件が頭を掠め、今は二人きりの空間にいることが少し息苦しい。
「──そういえば、若宮くん、あれから大丈夫だった?」
「えっ?」
頭の中を覗かれたのかと動揺してしまうほど、唐突に振られた課長の話に、一瞬言葉に詰まる。
昨夜のことならば、若宮課長は誤魔化したと言っていたから、私があの場に居たことを支倉さんは知らないはず。
それとも、誤魔化したとは言っていたけれど、私があの場に居たことくらいは話したってことだろうか?
迂闊に喋って墓穴を掘ったらと思うと、どう返せば良いのか迷う。
「芹沢さんって、正直よね」
顔に全部出ているもの――と言って、支倉さんは笑った。
苦笑や困惑とも違う、初めて目にする酷薄な笑みを浮かべて。