恋愛境界線
「芹沢さん、今、ちょっとだけ良い?」
エレベーターが目的の階に到着すると、すかさずそう言われ、仕方なくリフレッシュスペースへと移動した。
支倉さんは、周囲に私たちしかいないことを確認すると、ゆっくりと口を開いた。
「昨日の夜、若宮くんのマンションに居たの、やっぱり芹沢さんだったのね?」
「すみません。えっと、それは何のことでしょうか……?」
どうやり過ごすべきなのか考えあぐねて、とりあえずは知らない振りで通すことにした。
「誤魔化しても無駄よ。さっき、私が『あれから大丈夫だった?』って訊いた時、思い当たることがなければ、まずはいつのことなのかを訊ねるはずだもの」
「それは……、その、何のことだろうと思って、自分なりに考えていたというか……」
「嘘。言ったでしょう?芹沢さんは顔に全部出るって。私のセリフに対しても、何のことだろう?っていう疑問より、驚きが先に表れてたわよ」