恋愛境界線

「二人が互いに、相手のイニシャルと誕生日の組み合わせをパスワードに設定してるってことに、偶然気付いちゃってさー」


奥田さんは得意げに、「これってもう確実クロでしょ」と言ってワインを呷った。


「まぁ、パスワードって、決める時に何気に迷いますもんね」


「心理的にどうしても身近な数字から取りたくなるわよね」


自分の生年月日とか電話番号は当然却下されるし、かといって自分に関係なさすぎる数字は忘れやすい。


それが恋人に関する数字ならば、誕生日や電話番号でも問題ないし、忘れることもない。


支倉さんも、若宮課長に関係のある数字で設定してたりするんだろうか、なんて考える。


「私は社員番号にしようとしたら、それも却下されてどうしようかと思いました」


「俺も迷ったなぁ。で、社員番号を却下された遥ちゃんは、結局どうしたの?」


「私はハムっていうペットを飼ってるので、その子の名前と、うちにやって来た日の組み合わせにしました」


そう答えながら、皿の上にあった生ハムを口に運ぶ。


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